スポーツ、特に陸上競技をよく知らないひとから、100mのことを「たった100m」「たった10数秒」と短い(楽)という感覚で言われることがあります。
確かに100mは、陸上競技のトラック競技のなかで中学生以上では最も短い距離です。
小学生や初心者には100mでも長くて疲れるということがありますが、ここでは競技力がある選手についての「疲労」についてです。
ここでお話しする疲労とは、本人の自覚、選手の脚などの張り、選手の動作などで判断できる、肉体的な疲労のことです。精神的な疲労のことではありませんが、緊張や興奮などが肉体的な疲労につながることがあります。それは肉体的な疲労に含めます。
そして「競技力がある選手」とは、中学生、高校生、一般で、それぞれ各都道府県で上位3位程度に入る選手だと考えてください。
そのレベルの選手の指導や大会での引率を行ってきたので、選手の「疲労」の程度を目の当たりにしています。
「たった100m」でも全身の筋力を爆発させて走る100mです。かなり疲労が出るのです。
そして、その疲労の程度は大会規模により全然違います。
大会規模が大きいほど、緊張や興奮が高まり、選手が潜在的に持っている力を極限まで使おうと身体が反応し、競技の結果、疲労が大きくなるという傾向があります。
これはよく言う「アドレナリンが出る」ということでもあります。
身体の中には自らの意思によらず自動的に働く機能があります。
「自律神経系」というもので、
・興奮や緊張などにより活発化する「交感神経系」
・リラックス時などに活発化する「副交感神経系」
のふたつがあります。
アドレナリンは交感神経系が優位になった時に副腎から血液中へと分泌さる神経伝達物質です。つまり緊張や興奮により交感神経が高ぶった状態を引き起こし、潜在的に持っている力を極限まで使おうと身体が反応するのです。
逆に副交感神経が高ぶる状態は、疲労から回復するリカバリーのときです。
競技力がある選手の場合、大会によっては同日に100mと4×100mリレーを合わせて100mを4本走るということもあります。
規模の小さな大会でも疲労は残りますがさほど大きなものではありません。
逆に大きな規模になればなるほど、例えば地区大会(近畿大会や関東大会など)や全国大会など、100mを1本あるいは2本走っただけでもかなりの疲労が出ます。
その1本を走る都度にどこまで回復させられるかも競技力のひとつです。
アイシング、マッサージ、食べ物など様々な方法で回復に努めます。
先日行われた日本陸上競技選手権大会(日本選手権)で100mと200mで優勝したサニブラウン・アブデル・ハキーム選手は、世界選手権の代表発表後のインタビューで次のように語りました。
「世界選手権では予選、準決勝、決勝とラウンドを重ねる。2種目出場となれば、それだけスタミナも必要で、疲労度も日本選手権とは別次元」
大会規模による疲労度の違いを表したトップアスリートの言葉です。
また、日本選手権で100mに2位になった多田修平選手(関西学院大学)は、日本選手権では100mの予選、準決勝、決勝の3本を走っただけです。それでも翌週の西日本インカレでは、疲労が残っているため、またそれによるケガを回避するため4×100mリレーには出場しませんでした。優勝した100mでも「アップから体が動かず、(ベスト状態の)半分以下」と言っています。
100mでもかなりの疲労があることを物語っています。
この記事で、競技力がある選手を中学生、高校生、一般のそれぞれ各都道府県で上位3位程度に入る選手としましたが、他の選手に疲労がないということではありません。記事に書いたような規模の大きなな大会での疲労の方が疲労度が顕著であると経験上感じているということです。