うさりく先生の陸上教室

 

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陸上競技に関する情報や基礎知識を発信します。陸上競技を始めた人、もっと知りたい人、また、指導者の皆さんにも参考になるブログです。

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動画でフォームを確認 ~注意!!~

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ビデオカメラやスマートフォン等で動画が簡単に撮影でき、その動画でフォームの確認を行うことがあると思いますが、その際に注意を必要とすることについて。

 

     

 

 

数年前まで定期的に指導していたある選手、専門種目は100m、進学先の学校の陸上競技部に入部したため、たまに指導を受けに来たときに見る程度になりました。

その選手、スタートを苦手としていましたので、次に指導する機会があれば試させてみようと考えていたことがありました。

その後それを試す前にその選手の競技を見る機会があったのですが、私が試そうと考えていたことができていて、まだ違和感があるもののこれまでよりはスタートが良くなっていました。

そこで気になるのが、誰に指導を受けたのかということです。

本人に確認しました。
どうやら学校の顧問ではなく、お世話になっている病院のリハビリの先生に競技会のビデオ(動画)を見てもらいアドバイスを受けていたようです。
その動画は100mのレースでフィニッシュ付近のスタンドから撮影したものでした。

確かにスタートは良くはなった、でもまだ不十分で違和感がある、そのとき変えたのは地面につく手の位置です。

しかしそれ以降、スタートの合図(号砲)の前に身体が静止していないとして注意(結果的には口頭注意で全員にグリーンカード)を 受けることが起きるようになりました。

その注意を受けたレースの動画をみました。確かに身体が静止していない。厳密にいうと「set(用意)」の姿勢で後ろ脚が動いてて静止しないというものでした。 
競技を見て違和感を感じたのはこの点です。

実際にその選手の練習をみる機会が訪れました。

スタート練習、選手の前方から見ていると、やはり「set(用意)」の姿勢で後ろ脚が不安定、次は横からみました。

原因は直ぐにわかりました。
スターティングブロックのフットプレート(次の写真の足を置く黒い部分)に後ろ足がしっかりのっていません。

次の写真は、スタートの合図(号砲)が鳴って選手がスタートした瞬間。
黄色丸内はスターティングブロックを蹴って足がフットプレート(足を置く黒い部分)から離れようとしているところ(後ろ足)。同じ選手の逆の足(赤色丸内のオレンジ色のスパイク)はまだスターティングブロックのプレートにのっています(前足)。

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私が見ている選手、「set(用意)」の姿勢で後ろ足のつま先がスターティングブロックのフットプレートにわずかに触れている程度です。

上の写真で例えるなら、黄色丸内の足をそのまま下にずらし、つま先がスターティングブロックのフットプレートのトラック面との境辺りに触れている状態です。

「On your marks(位置について)」の合図の後、「set(用意)」合図の前も同様です。

通常、「On your marks(位置について)」の合図の後ではつま先部分がスターティングブロックのフットプレートに触れて(のって)いて、「Set(用意)」の合図でつま先以外の部分がフットプレートにのるような形になるものです。上の写真での赤丸内のような状態です。

もし足がフットプレートに触れていなければルールに反することになります。


このことに関するルール、

「On your marks(位置について)」の合図の後、競技者は自分の割当てられたレーン内のスタートラインの後方の位置につく。両手と少なくとも片膝がグラウンドに、両足はスターティング・ブロックと接触していなければならない「Set(用意)」の合図で競技者は手とグラウンド、足とスターティング・ブロックのフットプレートとの接触を保ちながら、速やかに最終のスタート体勢に構えなければならない。

 

また、最悪は不正スタート(通称「フライング」)と判断される可能性もあります。次のルールです。

Set の後、最終のスタートの姿勢になってから号砲までの間に次の動きを確認した場合、不正スタートとする。
ⅰ)静止することなく、動いたままスタートした場合。
ⅱ) 手が地面から、あるいは足がスターティングブロックのフットプレートから離れた場合。

 

そこで即対応を行いました。

まず、「On your marks(位置について)」の合図の後の姿勢(setの前の姿勢)で足のつま先をフットプレートに完全にのせるようにしました。
ルールの「スターティング・ブロックのフットプレートとの接触」は回避できましたが、この状態で「Set(用意)」の姿勢をとってもフットプレートにのっているのはつま先辺りだけで、不安定なままです。

次の策、フットプレートの傾斜角度を変えてみます。
角度を1段階だけ急にしました。

上の写真、黄色丸内のスターティングブロックのフットプレートと手前の選手のフットプレート、わずかですが手前の選手の方の角度が急です。このタイプのスターティングブロックの1段階の角度の違いです。

こんどは「Set(用意)」の姿勢でフットプレートに足の裏がしっかりのり動くことなく安定した状態です。

別の方法も試します。

フットプレートの角度を戻し、今度はフットプレートを前に移動させます。

上の写真、スターティングブロックの左右のフットプレートの間にフットプレートを固定する支柱があります。この支柱に溝(切れ込み)が多数ありますが、これがフットプレートを前後に動かし固定するものです。

溝1つ分前に移動させました。フットプレートにしっかり足がのっていないのはフットプレートが後ろ(遠い)と考えることもできるからです。

しかしこの時は、手と足の距離がわずかですが近くなったために「Set(用意)」の姿勢で窮屈(きゅうくつ)で腕にかかる負担も増えたと選手が感じたため、フットプレートの前後移動はさせず元の位置のままにしました。

結局はフットプレート角度を1段変えただけでその選手のスタートは各段に良くなりました。

わずかな違いですが選手によっては大きな違いなのです。

実は私、現役時代かなりスタートにこだわりました。今のようにインターネットもなければ専門書もない時代です(専門書は大きな書店にはあったのかも知れませんが目にしたことはありませんでした)。あったのは今も存在する陸上競技専門の月刊誌やその別冊くらいです。とにかく試行錯誤の繰り返しでした。高校3年生のときには当時の100mの高校記録保持者とレースする機会が多かったのですが、スタートで負けたことはありませんでした。フィニッシュでは数メートル差をつけられましたが・・・

この記事で取り上げた選手、ビデオ(動画)を見てもらってアドバイスを受けていましたが、そのアドバイスをした方に実際に目で見てもらってはいなかったようです。

また、アドバイスも手を着く位置のことだけで、それにより影響が出そうなところまでのアドバイスは受けていません。

このアドバイスで結果的にスタート時の重心が少し前方に移動したため、足がしっかりスターティングブロックのフットプレートにのらなくなったのです。


ビデオなどの動画でフォームを確認することは悪いことではありません。
静止画やコマ送り、スロー再生、その場で再生できるなど役立つこともあると思います。

しかし、今回の記事のようなことになってしまうこともあります。

見たいポイントにもよりますが、実際に目で前後左右から選手は見てもらい、指導者は見てあげることも重要であると思います。

 

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