※本記事の各競技会はは平成29年度のものです。
この記事は100mについてです。
国際ルールでは、エントリー選手数により準決勝の組数が決められています(特別な事情がない限りはこのルールに則る)。
・選手数24名以下は準決勝は設けない。
・25名~32名、準決勝は2組
・33名~56名、準決勝は3組
・57名~80名は予選を更に一次予選、二次予選と細分化し、二次予選が4組、準決勝は2組
選手数がこれ以上のときも、一次予選、二次予選、準決勝となり、それぞれ組数が決められていますが、本記事では省きます。
この国際ルールは、国内大会では適用されません。
国内大会では主催者が準決勝の有無、組数を決めます。
日本選手権(日本陸上競技選手権大会)は年によりエントリー選手数が変動します。
選手数が少なく、予選の組数が2組または3組にできる場合は準決勝がなく、予選、決勝の2ラウンドだけになります。
平成29年の第101回日本選手権の女子100mは、エントリー選手数が29名でした。予選、準決勝、決勝の3ラウンドの予定でしたが、2名が欠場し27名となったため、予選を各組9名の3組とし、準決勝はなくなりました。
競技場が9レーンだったため9名で走ることが可能でした。国内大会でのみ適用できるルールでも、「9レーンがある場合は、これを有効に活用して、一次予選の組数を少なくしてもよい」との記載があり実現したのでしょう。
今年(平成29年)を含め過去10回の日本選手権の男子100mを調べてみました。10回のうち2回が準決勝がなく、その他8回は準決勝があり、準決勝の組数は全て2組でした。
今年(平成29年)のインターハイ(全国高等学校陸上競技対抗選手権大会)の地区大会は全部で11地区ありますが、その中の1地区は24名のエントリーで準決勝なしでした。
36名以上の3地区は準決勝3組、他の24名~31名の7地区は準決勝2組でした。
準決勝を行った地区のうち準決勝が2組の場合の決勝進出条件は、「各組3着までと4着以下の中で記録上位2名」か「各組4着」のいずれかでした。
国内大会の場合、この進出条件も主催者が決めます。
進出条件や組み分けについての詳細は次の記事をご覧ください。
日本選手権を主催している日本陸上競技連盟(以下「日本陸連」)の場合、ルールに掲載されているものではありませんが、次のような申し合わせ事項があります。
日本陸連主催・共催競技会
ラウンド通過と番組編成に関する申し合わせ
A:トラック競技
1.レースの全部か一部に各自のレーンを用いる種目
⑴ 予選が2組の時のラウンド通過は着順+記録上位とするが,予選を経た準決勝が2組の時は着順のみ(4着取り)とする。
つまり日本選手権の準決勝からの決勝進出条件は「2組4着」です。
日本陸連は、記録上位を条件にすると、風力の差がある時に風力が良い組が優位になる可能性が高いため好ましくない。また予選の結果に基づき準決勝の組分けを行っており組間の走力差が小さいとみていることも理由のひとつとのことです。
それでは、「もし違う組で走っていたなら決勝に行けたのに!」というような、「組運」が結果に影響するケースは実際にどのくらい起こっているのでしょうか。
過去8回の日本選手権の男子100mと今年のインターハイ地区大会の100mを検証しました。
検証は風力の差を考慮する必要があるケースがあれば、風速が(無風)0.0m/sだと仮定した記録に換算できるサイトも利用し、その結果も参考に行っています。
その結果、日本選手権では風力条件が悪い(追い風が弱い)組の5着が風力条件が良い(追い風が強い)組の4着より記録が良い時、つまり組が違えば決勝に進出できる選手が変わるのは1回だけでした。
その回の実際の結果。(Qは順位で決勝進出が決まった選手。)
1組の5着の選手がもし2組で走っていたら決勝に進出できた可能性が高い
今年(平成29年)のインターハイの地区予選では11地区のうち7地区の準決勝が2組、決勝進出条件はそのうち3地区が「2組4着」、4地区が「2組3着+2」でした。
2組4着を採用した3地区の100mの男女、合計6競技、そのうちの3競技(50%)で組運が悪く決勝に進めないということが起きています。
1組の5着の選手がもし2組で走っていたら決勝に進出できた可能性が高い例(実際の結果とは異なります)。Qは順位で決勝進出が決まった選手
2組3着+2を採用した4地区の100m男女、合計8競技、そのうち1競技(12.5%)で、風の条件が悪く決勝に進めないということが起こっていた可能性が高いことが分かりました。
1組は追い風が弱く4着が+2に入らなかった例(実際の結果とは異なります)。Qは順位で決勝進出が決まった選手、qは記録上位2名で決まった選手。1組のときに2組ほどの追い風があれば1組4着の選手は2組5着の選手より記録が良かったと推測できる。
日本選手権はかなりの率で「2組4着」が妥当であるといえます。
一方、インターハイ地区大会では、何らかの問題がある確率は「2組4着」で50%、「2組3着+2」は12.5%です。
「2組3着+2」の方が妥当であったのです。
日本選手権で「2組4着」が妥当なのには他に大きな理由があると私は考えます。
それは参加標準記録が設定されていることです。
エントリ―する選手はその記録に到達していなければなりません。そのため選手間で極端に大きな記録差が生じない可能性が高いのです。
一方、インターハイ地区大会に出場してくる選手はその前の大会(都県大会など)で上位6位に入った選手です。記録は関係ありません。エントリーする選手間の記録差が大きい可能性が高いのです。そのことも関係していると想像できます。
このインターハイ地区大会の検証結果、今年だからこうなったのかも知れません。
インターハイ本大会は日本陸連も主催団体のひとつです。
準決勝は3組ですが、もし2組なら上記の申し合わせ事項により「2組4着」になると思われます。
一方、インターハイ地区大会には日本陸連は主催も共催もしていません。各地区関係団体が主催しており、各地区で条件を決められます。
今年(平成29年)のインターハイの地区大会で実際に組運が悪く決勝に進めなかった選手を見ています。
その大会のルールですのでやむを得ないことですが、地区大会で決勝に進出するか否かもそうですが、仮に決勝に進出しインターハイの出場権も得ていたなら、その選手の今後の競技人生や進路も大きく変わっていく可能性もあったのかと想像するとすっきりしない気分になります。
地区間でのインターハイ出場選手に記録差がでるのは勝ち上がりで進むためやむを得ないと思います。
また「4組2着」を採用した地区大会は、全て参加者数24名の大会です(一地区のみ特例措置または下位大会で6位同着2名などの理由で25名あり)。
予選の一組の人数を減らし準決勝を設け、準決勝進出選手の力(記録)差を減らそうとはしています。
しかし参加者数24名でも「2組3着+2」を採用している地区大会もあります。
参加者数が同じでも「2組4着」の場合と「2組3着+2」の場合が混在、この条件は同じインターハイにつながる大会ですので統一させる必要があると思います。
高体連関係者の方、ぜひご検討を・・・