陸上競技の100m走、オリンピックや世界選手権では「人類最速」という称号が与えられます。最近では日本人初の9秒台が期待され注目されています。
その選手たちを見ているとすごく速いスピードで100mを駆け抜けているようにみえます。100mをフィニッシュまでトップスピードで走り切れるのでしょうか?
この答え、ご存知の方も多いかと思います。短距離選手ならほとんどの方が知っていることでしょう。
でも知っている方も実際に数値で知る機会は少ないと思いますので参考にしてください。
この記事では日本陸上競技連盟が発行している「アスリートのパフォーマンス及び技術に関する調査結果データブック2016年度版」「陸上競技研究紀要Vol.12,2016」のデータを引用あるいは参考にしています。
その資料に100mの速度分析というものがあります。
簡単に説明すると、選手のスタートから10m毎の通過タイムを測定し、速度(1秒間に何メートル進んでいる)などを各10mの区間ごとに算出したものです。
日本人で100m9秒台に近いと言われている桐生祥秀選手、山縣亮太選手、ケンブリッジ飛鳥選手が2016年に国内で走った100mで、速度分析が行われたレースから各選手1レースを選び数値を見てみました。
飯塚翔太選手も先日10秒08という素晴らしい記録を出して9秒台も視野に入ってきましたが、2016年は主として200mに出場していたためデータがありませんので含めておりません。
数字が多くてわかりにくいかもしれませんが説明します。
尚、このデータあくまで各選手のある1レースを見たもので、同じ選手でも異なるレースでは、選手のコンディションや天候などの条件により値が変わってくるものです。
桐生選手、山縣選手、ケンブリッジ選手を比べてみます。
最高速度到達地点、これはそのレースで最高スピードが出ていた地点(スタートからの距離)です。その時の速度(最高速度)は1秒間に何メートル進むか(秒速何メートル)で表しています。
桐生選手と山縣選手は約45m地点が最高速度の地点、ケンブリッジ選手は約55mの地点です。その地点での速度は桐生選手 11.44m/秒、山縣選手11.40m/秒、 ケンブリッジ選手 11.38m/秒です。
90m~100mの区間での速度はほぼフィニッシュ地点での速度と考えられます。どの選手も最高速度より低下しており、桐生選手は ー0.66m/秒(5.77%減)、山縣選手は ー0.45m/秒(3.95%減)、ケンブリッジ選手は ー0.38m/秒(3.34%減)の低下です。
この速度低下、今回参考にした資料「陸上競技研究紀要Vol.12,2016」を見る限り、他のレースや他の選手全てが最高速度到達以降は低下しており、その途中で上昇することはありません。フィニッシュに向かって低下する一方です。
参考として挙げたリオデジャネイロオリンピックの100m決勝のボルト選手とガトリン選手の最高速度到達地点も65mと55m、それ以降は速度が低下しているのです。
上の資料には記載していませんが、リオデジャネイロオリンピックの際の日本選手の最高速度到達地点、桐生選手の予選55m、山縣選手の予選45m、準決勝65m、ケンブリッジ選手は予選、準決勝ともに65mでした。
この様にトップアスリートでも100mを走っている間でトップスピードが出ているのは45m~65m前後の地点です。
わずか100m、わずか10数秒と思うかも知れませんが、100mを最後までトップスピードで走り切ることができる選手はいないのです。