競技の結果、気になりますよね。
トラック種目の記録のことをタイム(時間)とよく言いますが、そのタイム(時間)はどこでどうやって計っているのか知っていますか?
今日のうさりく先生のお話はタイムの測り方についてです。
フィニッシュの定義
計測の方法をお話しする前に、
まずフィニッシュとは何かをお話しします。
陸上競技ではゴールのことをフィニッシュといいます。
フィニッシュとは
競技者の胴体(トルソー:頭、首、腕、脚、手、足を含まない部分)がフィニッシュラインのスタートラインに近い方の端の垂直面に到達した瞬間
です。
ルールブックにこのように記載されています。
トルソーという言葉も陸上競技の中では重要なので覚えておいてくださいね。
胴体の説明はわかるとして、
「フィニッシュラインのスタートラインに近い方の端の垂直面に到達した瞬間」はちょっとわかりにくいですね。
フィニッシュラインはトラックに引かれている線ですが、幅が5cmあります。
スタートラインに近い方の端とは、すなわち5cm幅の線のスタートラインに近い縁のことです。
そこに壁があると考えましょう。
その壁に走ってきた選手のトルソーが到達した瞬間がフィニッシュです。
次の写真、200mのフィニッシュです。見た目はこうですが、
フィニッシュラインのスタートラインに近い方の端の垂直面に壁がある、次の合成写真の青い部分、これがフィニッシュの壁です。
次は上の写真のフィニッシュラインと壁の境目を拡大したものです。
数字のある方がスタートライン側、フィニッシュラインのスタートラインに近い方の端の垂直面に壁があります。
但しマラソンなどの道路競技、自然環境などを利用したクロスカントリー競走、マウンテンレース、トレイルレースではトルソーで計測しない場合もあります。
詳しくは別の記事で説明します。
トラック種目のタイムの測り方は2通りあります。
手動計時と写真判定システムによる全自動計時(電気計時)です。
一つずつ説明していきます。
手動計時
ストップウォッチを使い人が手動で計測することです。
100分の1秒が計測できるデジタル表示の時計ですが、何でも良いというものでもありません。
日本陸上競技連盟が認めた時計でなければなりません。
この時計で計測する審判員を計時員と言います。
計測の方法
スターターが持つスタート信号器(ピストル)の閃光または煙を見て、人がストップウォッチのスタートボタンを押します。
時計を止めるのは、選手がフィニッシュした瞬間、これも目で見て止めます。
ひとりの選手を3人の計時員が計測、3個の時計で計測しています。
記録の判定
それでは、3人の計時員が計測した時間を
どのように記録(タイム)として判定しているのでしょうか。
トラックレースでは、ちょうど0.1秒で終わる(100分の1秒が0のこと)以外は次の0.1秒として変換され記録される。すなわち、10秒11は10秒2と記録される。
これは、分かりにくいけれどルールブックの記述です。
簡単に言えば100分の1秒を切り上げて10分の1秒にするということです。
このように変換した後、次のようにタイムを決定します。
*3個の時計が一致したらその時間を公式記録とする。
*3個の時計のうち2個が一致し、1個が異なっている場合は、2個の時計が示す時間を公式記録とする。
*3個の時計がそれぞれ異なった時間を示すときは、中間の時間をもって公式記録とする。
*なんらかの理由で、2個の時計でしか計時できず異なった時間となった場合は、遅い方の時間を公式記録とする。
順位の判定
3人の計時員の測定したタイムに基づいて記録が判定されます。
記録の測定とは別に、決勝審判員という競技役員が順位を目で見て判断しています。
つまり、記録と順位は異なる人が判定しているのです。
写真判定システムによる全自動計時(電気計時)
単に「写真判定」と呼ばれることが多いです。
人がストップウォッチを押しているのではなく、まさに「写真」で判定しています。
カメラを通してフィニッシュを記録し、合成画像を生成して判定します。
カメラは、フィニッシュラインの延長線上に設置されています。
見たことがない人は競技場に行ったときに探してみてくださいね。すぐわかることもありますが、かなり高いところにあったり、建物の中にあったりして見えにくいときもありますが、それらしい建物などはわかるはずです。
因みに、フィニッシュラインの両端の外側に小さなカメラの様なものが置かれていることが良くありますが、あれは速報値を出すためのもので、上に書いたカメラとは違います。
写真判定システムのしくみ
スターターの合図(スターターが持つスタート信号器)と連動し自動的に作動します。
フィニッシュをカメラで撮影し、横軸に時間、縦軸に各レーンの走者がフィニッシュラインに到達した瞬間の画像を作り出します。
写真判定のモニターに映る写真を印刷したもの
写真の下、横軸にある数字と目盛りがフィニッシュラインに到達した時間で、これがフィニッシュラインに到達時の選手の合成写真です。
ピンとこないかもしれませんが、写っている選手は全て同じフィニッシュラインの延長線上に設置されたカメラで撮影されており、同じところに到達した時の写真。
先頭の選手がフィニッシュする少し前から最後の選手がフィニッシュするまで撮影し続け、それを時間差にし1枚の画像にしています。
写真判定室という所に判定員がいて、モニターを見ています。
モニターには上の写真の様な形で映し出されます。
下の写真がモニターの表示例です。
写真をよく見てください。
1着の選手のところに縦線が入っていますね。
この線は画像が出来上がった直後にはありません。
まさにこの縦線がトルソー(頭、首、腕、脚、手、足を含まない胴体)がフィニッシュラインに到達した瞬間を示しているのですが、これは自動ででき上がるものではありません。
写真判定員という競技役員がモニターを目で見て、パソコンのマウスや左右の矢印キーでトルソーの位置に線を引くのです。
もう少し詳しく書くと、モニター上でレーンを選び、モニターに表示される線をそのレーンの選手のトルソーに合わせ確定すると線が固定されます。
その線の位置で記録が決まるのです。
判断しにくい時は、画像の拡大もできます。
レーン毎に記録を決めていくわけですが、その際、レーンの間違えがないように、選手が腰につけている番号(「腰ナンバーカード」「腰番号」「腰番」などと呼ばれる)を確認することがあります。
腰ナンバーカードは布のものを安全ピンでつける場合やシールになっていて貼る場合があります。
オリンピックなどでも同じですが、よく選手が太ももの外側に貼っているものがそれです。
多くの大会では、カメラはトラックの外側に設置されており、それに写るように腰ナンバーカードは右腰につけますが、規模の大きい大会になりますと、カメラがトラックの内側にもあることがあり、その時は腰ナンバーカードを腰の左側にもつけます。
カメラが両側にあることの理由のひとつとして、選手のフィニッシュの姿によってはトルソーが判定しにくいことがあります。より精度を高めるため両側から写すのです。
トラックの内側にあるカメラの例、白いポールについているのがカメラ、下の三脚についている機器は速報値を出すためのもの
腰ナンバーカードに戻ります。腰ナンバーカードは腰の真横より少し後ろにつけてくださいね。その方がフィニッシュの時写真にきれいに写ります。
腰ナンバーカードをつけることがあったら試してみてください。腰ナンバーカードをつけた状態でそちら側の足を上げてみます。走っている姿の様に。特に前寄りだと腰ナンバーカードがしわになり見にくくなります。
競技の前の招集(点呼・コール)の際、腰ナンバーカードがきちんとついているか確認されます。
競技役員からつける位置を直すように言われることもあります。
また、右側につけなければならない時に、左側につけている選手がたまにいます。
気を付けてくださいね。
関係することなのでここで書きますが、スータトの前にユニフォームの上(シャツ)を
下(ランニングパンツ)に入れる様に注意されることがありますが、あれは腰ナンバーカードが隠れている、もしくは隠れそうなためです。ルールではシャツを入れなければならないとは書いてありません。
但し
不快に思われないようにデザインされ仕立てられた服装を着用しなければならない。
と書かれていますので腰ナンバーカードが見えていてもユニフォームのデザインがシャツを入れるタイプなら入れましょう。
中に入れないデザインのユニフォームならシャツを中に入れなくても構いませんが、腰ナンバーカードは見える様に。
「全自動計時」は全自動ではない
全自動計時の呼び方は一部正しくないと私は思っています。
写真判定や電気計時と呼ばれ、自動で記録が計測されている様に思われがちですが、最も重要なフィニッシュラインへの到達を判定しているのは人なのですから。
写真判定員の判定がきちんとなされて初めて記録が確定するのです。
現在のところ、機械にはどこがトルソーかまで判定できません。
私もこの写真判定員を経験したことがありますが、かなり気を遣います。
何しろ選手の大事な記録に関わっているのですから。
速報値と確定結果
大会でよくフィニッシュ後の結果を判定中の結果とアナウンスされることがありますね。
それはそのレースの全ての選手に対して人による判定が終わっていない状態のときです。
フィニッシュ付近に置かれているタイマーが、1着の選手の記録を表示します。
この記録はフィニッシュ直後は速報値であり、まだ確定していません。
速報値とは選手の身体の一部(大体胸辺り)がフィニッシュラインを通過した時を機械が判定し計測したタイムでしかなく、きちんとトルソーで判定されたものではありません。トルソーより先に腕や手に持つバトンが通過した時にも止まります。
機械が判定?
選手がフィニッシュラインさえぎったときを機械が読みっとっているだけです。その方法のひとつにフィニッシュラインの両端の外側にある小さなカメラの様なもの、あれがビーム(光電管)を出していて、それを選手がさえぎったときを機械が読みとるというものがあります。上の写真、トラックの内側にあるカメラの例に写っている三脚についている機器がビーム(光電管)を出しているもの。厳密にはトラックの両端にあるのですがひとつはビーム(光電管)の発信器、もうひとつは受信器です。
全ての選手の判定が終わり、写真判定員が確認し、初めて確定結果となります。
確定結果を待つ時間はいつもドキドキですね!
そのうちに全自動で機械がきちんとトルソーを判断できるような日が来るのでしょうか・・・?
1000分の1秒の戦い
写真判定では、記録の発表は100分の1秒までですが、実際には1000分の1秒まで計測しています。
1000分の1秒を切り上げて100分の1秒にしています
電気計時(写真判定)の場合は1000分の1秒まで計測し、順位もその記録で確定します。
発表される記録が同じでも着差がある(順位が異なる)場合は1000分の1秒単位でみると差があるということです。
時々「着差なしの同着」(「同着」のこと)ということを聞きますね。これは1000分の1秒まで同じ記録の選手同士のことです。
以下、2019.6.28追記
また、「同タイム、着差あり」というときは、1000分の1秒を切り上げた100分の1秒では同タイム、でも1000分の1秒単位で見ると差があるときです。
例えば、
1000分の1秒単位では、
選手A:9秒965 で記録(100分の1秒単位)は 9秒97
選手B:9秒968 で記録(100分の1秒単位)は 9秒97
です。
記録は同タイム、順位は1000分の1秒単位でみると0秒003の差があるため選手Aの方が上位となります。
追記ここまで。
順位を決める時には、1000分の1秒単位で決めることがあるのです。
この1000分の1秒、どの位の距離(長さ)?
フィニッシュ時点の速度は人によって異なるので正確には言えませんが、例えば、100mを11秒で走る人が前半の50mを6秒、後半の50mを5秒で走り(前半は止まった状態から走り出すので時間が掛かります)、後半の50mの間をずっと同じスピードで走ったとすると、50mを5秒は10mが1秒、0.001秒(1000分の1秒)は1cmです。この場合の同着はわずか1cmに満たない差ということです。
ルールでは、1000分の1秒の計測で記録や順位を決めますが、精度の高いカメラでは2000分の1秒まで測定可能だそうです(記述時現在)。