陸上競技の100mでは、フィニッシュまでトップスピードで走り切ることができないことを過去の記事で読みましたが200mではどうなのでしょうか?
まず100m、トップアスリートでも100mを走っている間でトップスピードが出ているのは45m~65m前後の地点、
桐生祥秀選手、山縣亮太選手、ケンブリッジ飛鳥選手が2016年に国内で走った100mで、速度分析が行われたレースから各選手1レースを見ると、
フィニッシュ地点での速度はどの選手も最高速度より、桐生選手は 5.77%低下、山縣選手は 3.95%低下、ケンブリッジ選手は 3.34%低下していました。
このことの詳しい記事は、
この100mでの速度低下、参考にした資料「陸上競技研究紀要Vol.12,2016」を見る限り、他のレースや他の選手全てが最高速度到達以降は低下しており、その途中で上昇することはありません。フィニッシュに向かって低下する一方です。100mを最後までトップスピードで走り切ることができる選手はいないのです。
では200mの場合はどうなのか、日本陸上競技連盟が発行している「アスリートのパフォーマンス及び技術に関する調査結果データブック2016年度版」「陸上競技研究紀要Vol.12,2016」のデータを引用あるいは参考にまとめてみました。
その資料に200mの速度分析があります。
簡単に説明すると、選手のスタートからある地点毎の通過タイムを測定し、速度(1秒間に何メートル進んでいる)などを算出したものです。
その測定地点は()内は目印になるトラック上のマーカー(位置を示す印)、
・20m(400mハードルの6台目)
・55m(400mハードルの7台目)
・80m(400mハードルの8台目、4×100mリレー第4走者の加速ライン(ブルーライン))
・100m(4×100mリレー第3から第4走者のテイクオーバーゾーン(バトンゾーン)の中央)
・121.5m(100mハードルの2台目)
・149.42m(100mハードルの6台目)
・181m(100mハードルの9台目)
・200m(フィニッシュタイム)
です。
この地点、半端な位置に見える部分もありますが、競技会時に都度距離計測をする必要がないトラック上のマーカー(位置を示す印)を使用しているためです。
この各区間での最高速度、フィニッシュ時(181m~200m区間)の速度、ピッチ(脚の回転数)、ストライド(歩幅)などの例は次表のとおりです。
2016年5月3日に開催された静岡国際陸上競技大会での飯塚翔太選手(ミズノ)とサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東京陸協)、世界選手権ロンドン大会に出場の2選手のデータです。
このデータあくまで各選手のある1レースを見たもので、同じ選手でも異なるレースでは、選手のコンディションや天候などの条件により値が変わってきます。
最高速度到達地点、これはそのレースで最高スピードが出ていた区間(スタートからの距離)です。その時の速度(最高速度)は1秒間に何メートル進むか(秒速何メートル)で表しています。
両選手とも55m~80mの区間で最高速度がでています。
飯塚選手 10.82m/秒、サニブラウン選手 10.74/秒です。
181m~200mの区間での速度はほぼフィニッシュ地点での速度と考えられます。
両選手も最高速度より低下しており、
飯塚選手は ー1.23m/秒(11.38%減)、サニブラウン選手は ー1.49m/秒(13.895%減)の低下です。
この速度低下、今回参考にした資料を見る限り、他のレースや他の選手全てが最高速度到達以降は低下しており、その途中で上昇することはありません。フィニッシュに向かって低下する一方です。
これは100mの時と同じ結果です。
ただし100mでトップスピードが出ているのは45m~65m前後の地点だったのに比べ、55m~80m区間と少し区間がスタート地点より遠くなっています。
速度低下率は100mの3~6%程度に比べ、11%~14%程度と大きくなっています。
ピッチは、飯塚選手が最高速度到達地点(区間)での4.82歩/秒が181m~200mの区間では3.87歩/秒、サニブラウンが最高速度到達地点(区間)での4.47歩/秒が181m~200mの区間では3.69歩/秒と、両選手とも大きく低下しています。
表には記されていませんが、最高速度到達地点以降フィニッシュに向けて低下の一方です。
一方、ストライドはほとんど変化がありません。
両選手ともストライドは維持、ピッチの落ちが速度の低下につながっていると推測できます。
速度、ピッチの大きな低下、これは200mと距離が100mより長いためだと考えられます。
参考にした資料を見る限り、速度、ピッチの低下率は100mよりも個人差は大きいです。
最高スピードを上げることも重要ですが、この低下率を少なくすることも100mより記録に大きく影響すると思われます。
200mの選手は、この低下率をいかに減らすかを課題に日々研究し練習に取り組んでいるものなのです。