今回は、競技場の外で行われる競技、マラソンやロードレース、競歩などの記録測定について、うさりく先生に教えてもらいます。
競歩は競技場のトラックのみで行われるレースもあり、その場合トラック種目の記録測定方法が適用されます。こちらを参考にしてください。
競技場の外で行われるレースはこれ
マラソンとロードレースはルール上、道路競走といいます。
競技場の外で行われるレースはこの道路競争の他に競歩、クロスカントリー競走、マウンテンレース、トレイルレースがあります。
マラソン、ロードレース、競歩は皆さんお分かりかと思うので、残りの競技について簡単に説明しておきます。
クロスカントリー競走
草で覆われた自然の障害物がある広い地域または森林地帯で行なわれます。
自然の障害物がない場合は自然の障害物に見えるようにして人工的な障害物を設置しても構いません。
障害物は走って通過できるもので、非常に高い障害物、深い溝、危険な上り坂や下り坂、下草が茂ったところなどは使用しません。
マウンテンレース
レースにより、上り坂中心のコースだったり、上り坂と下り坂があってスタート地点とフィニッシュ地点の標高が同じであるコースだったりします。
相当な高低差の登りがある場合は砕石舗装された道路の使用が認められますが、主に道路のない地帯で行われます。
距離や標高差についての限度が設けられています。
トレイルレース
野外(山、砂漠、森林、平野など)の自然環境のなかで行われます。
オフロード主体のさまざまな地形(泥道、森の中や1人しか通り抜けられない小道など)がコースになります。
砕石舗装またはコンクリート舗装した道路は含まれていてもかまいませんが、最小限にとどめ、コース全体の距離の20%を超えてはならないと決められています。
距離や標高差についての限度は設けられていません。
トランスポンダーシステムとは
別の記事でトラック種目のタイムの測り方は二通りあると説明しました。
手動計時と写真判定システムによる全自動計時(電気計時)の二通りです。
競技場の外で行われるレースのタイムは
手動計時、写真判定システムで計測されることもありますが、
多くはトランスポンダーシステムを使って計測されます。
トランスポンダー(Transponder)、聞きなれない言葉ですが、
TRANSmitter(発信器)とresPONDER(応答機)を組み合わせた合成語です。
ルールブックでは、選手が身に着けるチップやタグと呼ばれる小型発信器のことをトランスポンダーと呼んでいます。
トランスポンダー(チップ、タグ)は数グラム程度の軽さで、ルールブックにも”負担にならない重さである”と書かれており、次のようなものがあります。
・シューズのひもに通して装着するもの
・シューズのひも等にビニールタイを使用して装着するもの
・マジックベルトタイプでシューズにも装着できるもの
・ナンバーカードと一体にして装着するもの
トランスポンダー(チップ、タグ)の例:https://runnet.jp/runtes/chip/
トランスポンダーシステムによってどのように計測されるか
このシステムはスターターの信号器によって始動するか、スタート合図に同期していることが必要です。
フィニッシュラインには、トランスポンダーに自動的に反応する装置が設置されていて、選手がフィニッシュラインを通過するとタイムが計測される仕組みになっています。
すべてのレースは0.1秒単位で計測され、0.1秒表示がゼロでない場合は切り上げます。
例) 2:09:44.3 → 2:09:45
レースで使用するシステム(トランスポンダーや計測装置全て)が日本陸上競技連盟の認定を受けたものでなければ、記録は公認記録として扱われません。
グロスタイムとネットタイム
グロスタイム
信号器のスタート合図(または同期したスタート信号)から競技者がフィニッシュラインに到達するまでの時間のこと。
もし、何かの大会で、日本陸上競技連盟の公認記録が参加資格として必要となる場合は、このグロスタイムで申告しなければなりません。
ネットタイム
競技者がスタートラインを通過してからフィニッシュラインに到達するまでの時間をネットタイムといいます。
東京マラソンなどのスタートを思い浮かべてください。
参加選手が多く、スタートラインからかなり後ろまで並んで待っている大会がありますね。最前列に並んでいるのでなければ、スタートの合図があってからスタートラインを通過するまで時間がかかります。
先ほどお話ししたグロスタイムはスタートの合図から時間を測るので、必ずしも選手のスタートラインからのフィニッシュラインまでの記録ではありません。
これと比べて、ネットタイムは選手が実際に走った時間に近い結果となります。
ネットタイムが計測できる大会では、その記録を選手に教えてくれることもありますが、ネットタイムはあくまでも参考記録であり、公認記録にはなりません。
トランスポンダーシステムが使われる競技のフィニッシュ
フィニッシュと記録測定のこと(トラック種目編)で、トラック種目におけるフィニッシュのことを書きました。
陸上競技のルールが規定するフィニッシュは競技者の胴体(トルソー:頭、首、腕、脚、手、足を含まない部分)がフィニッシュラインのスタートラインに近い方の端の垂直面に到達した瞬間。
つまりトラック種目のフィニッシュはトルソーで判定します。
一方、トランスポンダーシステムで計測するときは、選手が身に着けている発信器、トランスポンダー(チップ、タグ)がフィニッシュラインを通過したときがフィニッシュになります。
前述のようにトランスポンダーはシューズやナンバーカード(ゼッケン)に装着されています。
ナンバーカードと一体にして装着されているときは、陸上競技のルールが規定する「トルソーで判定」にかなり近いフィニッシュになりますね。
しかし、シューズにつけている場合はトルソーからは離れています。
それでもOKなんです。公認記録になります。
ルールブックにも”このシステムによって決定された時間と着順を公認とみなしてよい”と書かれています。
ただし、”必要に応じて第164条2と第165条2を適用してもよい”とも書かれています。この第164条2と第165条2がトルソーでの判定のことです。
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1位が2位、2位が1位?!
トランスポンダー(チップ、タグ)をシューズに着けて使う大会では、おかしなことが起きることがあります。
以下、実際にあった話です。
二人の選手が1位を競って走ってきたとき、フィニッシュ(着順)をトルソーで判定したところ、1位の選手と2位の選手で記録が逆転しまったことがあるのです。
・・・A選手がフィニッシュで胸をぐっと出し、
見た目ではA選手が1位。
ところが、タイムではトルソーが後ろにあったB選手の方が速く、
記録ではB選手が1位。
B選手が胸ではなく足を前に出してフィニッシュしたため、機械は、B選手のシューズに装着されたトランスポンダーに先に反応し、B選手が1位と判定した・・・
珍しいケースです。
決勝審判員という競技役員がトルソーでの順位をきちんと見ていたため、トルソーが先に入ったA選手が1位とされ、トルソーが後に入ったB選手が2位と判定しました。
記録は、2位の記録を1位の記録に揃え、1位2位同記録としました。
1秒で移動するのは数メートルです。それも含めて競技役員が検討した結果です。
A選手もB選手も、陸上競技のルール、トルソーでフィニッシュのことをよく知っていて、足ではなくトルソーでの判定を自ら求めてきました。
競技力だけでなくルールもきちんと理解した素晴らしい競技者でした。
この様なことも起き得るため、日本陸上競技連盟公認大会では、決勝審判員が置かれていることは当たり前で、ビデオ撮影を行っていることもあります。
規模が大きな大会では写真判定(電気計時)を導入していることもあります。判定されるのは全員ではなく上位数十名程度(大会による)ですけど。
トランスポンダーシステムは優れもの
トランスポンダーシステム採用で、大会によっては、途中の定められたポイント(例えば5km毎)の通過記録の計測も可能になり、携帯電話やスマートフォンで、レースの結果がリアルタイムに確認できることもあります。
また、フィニッシュ地点での即時記録証発行も可能になりました。
ただしネットタイムの計測や途中ポイントの通過記録は、スタートしたという個人ごとの情報が必要であり、大会によってはそれを測らないものもあるので参加に際しては注意が必要です。
大会要項や大会概要に書かれていない時は申し込み前に開催主催者に確認しましょう。
また、最近はマラソン大会がたいへん多くなりましたが、この様なシステムを使っていない場合や使っていても公認大会でない大会も多数あります。
しっかり調べてから申し込みましょう。