うさりく先生の陸上教室

 

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陸上競技に関する情報や基礎知識を発信します。陸上競技を始めた人、もっと知りたい人、また、指導者の皆さんにも参考になるブログです。

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マラソンやロードレースの距離の計測

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競技場の外で行われるマラソンやロードレースの距離って本当に正しいんですか?

測るの大変そうですよね。どうやって測っているんですか?

うさりく先生、教えてください。


   

 

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公認大会にするためには、記録(タイム)に関しては、トランスポンダーシステムによる計測、手動計時や写真判定システムで計測されることが条件ですが、距離の計測方法にも条件が定められています。
 
トランスポンダーシステムについての記事はこちら




コースの距離、当然ですが短くては絶対にダメです。
ルールブックでは次のように定められています。

コースの長さは種目の公式距離より短くてはいけない。 

(種目とは、例えば、20㎞、ハーフマラソン、30㎞、マラソン(42㎞195)など)


f:id:usariku:20170423184004p:plain だれが測るのか?

 

コース計測員という資格を持った計測員が測ります。



f:id:usariku:20170418121827p:plain どのように測るのか?

 

2通りあります。
自転車計測ワイヤー計測です。

 

日本陸陸上競技連盟の公認コースの認定を得るための距離計測を手伝ったことが何度かあります。私は計測員の資格は持っていないので、手伝いです。

2通り、どちらも経験しましたので、一つずつ説明していきます。

 

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自転車計測

 

 ルールでは、

自転車に「回転測定器」と呼ばれる専用のカウンターを取付け、基準の距離(概ね400m)をカウンター数に換算して自転車で計測する。
距離の減少を防止するため0.1 %を加えて計測する。

わかりやすく言い換えると、基準の距離を400mとした場合、回転測定器が示すカウンターが400m+400mの0.1%を示す様にして計測するということです。0.1%は誤差で距離が短くならない様に少し長めで計測するということです。
※ここから後の説明では誤差で短くなる考慮は含まず「400m」と書きます。

この作業はかなり大変です!

まず、測定が行われるのが早朝が多く、季節によっては夜明け前から行います。
それにも理由があります。

日が昇り気温が上がると道路の表面温度も上がるし、自転車のタイヤの空気圧にも影響が出るからです。


この自転車計測、使用する自転車の精度を確認してから開始します。

自転車は1台ではなく数台で行います。

まず直線道路に基準となる400mをメジャーで計ります。計測員が言うには、そのメジャーも日本にわずかしかない精度の高いものだそうです。
その400mを自転車で走行し、回転測定器の数値を測定します。これを数回往復し、都度タイヤの空気圧などを調整、回転測定器が示すカウンターが400mを示す様に精度を上げていきます。

この作業をカリブレーションと言います。

そして例えばスタートから全コースの5km毎にポイントを決める場合、
回転測定器が示すカウンターが400mを示す様になっているので400mの2.5倍、その5倍が5km、
回転測定器で5km毎を確認。仮ポイントとして印をつけます。
計測が終了したあと自転車すべてのデータを集計し、距離を算出します。この算出はPCで行います。

計測員の皆さんさすがです、誤差ほとんどありません(注:私が関係したときのことです)。

計測員のOKが出たら、印をつけた仮ポイントにマーキングします。金属びょうの埋め込みやペイントなどの作業です。

これが自転車計測です。

自転車計測で使用する自転車、私が関係したときの計測員の話だとかなり高級品で、計測員の個人持ち、回転測定器は決まったものが支給されるそうです。

ワイヤー計測

 

 ルールでは、

ワイヤーに真の50m を移設し、50m ごとに計測する。

「真の50mを移設」わかりにくいですね。これあとで書きますが、きちんとした50mのワイヤーを使ってということです。

  

50mのワイヤーを人が持ち、50m歩いて印をつけてはまた歩いて移動、これを繰り返して計測することです。
歩いている間はワイヤー引きずってはならず、持ち上げて歩き、止まったらしゃがみ・・・5km測るために、5km歩き100回スクワットしている様なものです。

これ経験したとき、さすがにきつかった!

この50mのワイヤーも自転車計測で使うのと同様の精度の高いメジャーで長さを確認します。
測定が行われるのも早朝が多く、季節によっては夜明け前から行うのも同じです。
ワイヤーも日が昇り気温が上がり道路の表面温度が上がると影響で長さが変わる可能性が高いからです。

あの東京マラソンの第1回大会のときもワイヤー計測。何日もかけて行なわれました。

 

 

 

 

自転車計測とワイヤー計測どう選ぶの?

 

 ルールでは、

IAAF/ AIMS認証コースでは、自転車計測としなければならない。

IAAFは国際陸上競技連盟、AIMSはマラソン・ロードレース協会のこと。
簡単に言うと国際大会では自転車計測が義務付けられています。

 

その他、日本陸上競技連盟などが主催する大会の計測でも自転車計測で行うべきとされています。


上記の国際大会のために計測を行うコース計測員は「IAAF公認コース計測員」という資格を持ち計測を行います。

日本陸上競技連盟などが主催する大会の計測でも「IAAF公認コース計測員」が計測すべきとされています。

このIAAF公認コース計測員、国内にいるのはまだ少数です。

 

今では多くの公認コースの測定で、自転車計測が採用されるようになりました。

自転車計測の登場で劇的に楽になったのです。 

 

f:id:usariku:20170418121827p:plain 毎回測るのか?

一度公認をとれば5年間は有効です。
公認をとるための計測は5年に一度行わなければなりません。

 

もしコースが工事などで変わったら、その都度計測のやり直しです。

*コースの大部分または全部の変更

当然すべて計測のやり直し。
公認コースの申請も新規として扱われ、その年から5年間公認コースとして有効になります。
途中変更がなければ、次の計測は5年後です

*一部分の小さなコース変更

影響のある一部を計測し、差をスタートやフィニッシュ地点で調整することもあります。
次の計測は前回公認を受けたときから5年後であって、小さなコース変更のための測定から5年後ではありません。
例えば、公認を受けてから4年目でコース変更したとすると、翌年にはもう5年に1度の更新のため、コース全体の計測が行われることになります。

 

私が運営に関わる公認大会のひとつは河川敷で行なわれるため、土手の工事などでコースが何度も変わりました。その都度計測のやり直しです(ほとんどが一部ですが、コースの半分以上の変更もありました)。
時には工事が終わり大会当日には前年とほぼ同じコースを使えそうなときもありますが、当然計測し直したコースで大会は開催されます。

参加者の皆さんに、コースがよく変わるとご指摘を受けることがありますが、それはきちんと計測した結果なのでご理解ください。

 

   

 

f:id:usariku:20170418121827p:plain 大会当日にも自転車計測?

実は大会当日にも自転車計測が行なわれる時があります。
選手のスタート数分前に計測開始します。

この下に書いた「距離不足で公認されなかった!」事件のふたつめ「2015年某マラソン大会の例」は距離不足が当日の自転車計測で見つかっています。

見てみたい人は国際大会をチェック!

国際大会では当日の自転車計測は必ず行なわれます。

選手が来る前に自転車が通過するのを見ることができるかもしれませんよ。


その大会が国際大会かどうかを知りたい場合は、「〇〇マラソン大会(大会名) 大会要項」で検索するとその大会の大会要項を見ることができます。

その中の主催者や後援者に「国際陸上競技連盟」が入っていたり、競技規則に「国際陸上競技連盟(IAAF)並びに日本陸上競技連盟競技規則及び本大会規定による。」の様に書いてあります。

 

 

 

「距離不足で公認されなかった!」事件

 

f:id:usariku:20170423184004p:plain 2016年某マラソン大会の例


ニュースにもなったので知っている人も多いと思います。

日本陸連公認のフルマラソンコース(42.195キロ)のスタート位置を、勘違いして誤った場所に設定、48メートル距離が短くなった大会があります。

スタート5分前に過ちに気付いたスタッフが修正するよう求めたのに、審判長ら競技役員4人が「多少のずれは問題ない」と判断し、大会運営を続行したようです。

そのまま競技は行われ、記録は日本陸上競技連盟から公認されないということがありました。

48メートルと言っても時間にすれば10秒前後も変わります。これを「多少のずれ」と判断した審判長ら競技役員4人は、計測の立会い経験がないのでしょうか?

これでは走った選手に失礼です。
計測員や計測に関わった人にも失礼です。

コース計測時にスタート位置を示すために道路に金属びょうを埋め込むのですが、別の大会の金属びょうをこの大会のびょうと間違えた、これが勘違いの原因だったということです。

 

道路に埋め込まれた金属びょう、確かに場所によっては色々な大会の物が埋め込まれていて間違えやすいことは確かです。特に河川敷を使うコースには多く埋め込まれています。

私が関係する大会のコースにもたくさんあります。しかもそのびょうがどれもとにかく似ているのです!色の違いはあるけれどお互いに確認しているわけではありません。

そこで私が関係する大会では金属びょう以外にペイントなどで他と区別がつくよう工夫しています。

これに関してもルールに触れられています。

”他のマーキングと間違えないように特有の色で” と。このマーキングの多くが金属びょうです。

 

f:id:usariku:20170418121827p:plain 2015年某マラソン大会の例


もう一つ、コースの距離不足で未公認になったとして知られているのが関東の港町で有名な地名の名がついたマラソン大会、2年前の第1回大会です。詳しくは「〇〇マラソン 距離 不足」で検索すればでてきます。

この大会、大会前から公式サイトなどでは日本陸連の公認大会ではないと明記されていました。しかし「コースについては日本陸上競技連盟公認コース申請予定です」としていたのに・・・

ラソンを走った後に、実は公認になりませんと言われても・・・辛いですよね。その日を目指して頑張ってきたのですから。

大会運営が正しくなされること。

これは全て選手のためです。

 

「第1回大会」とかですと、このようなことが起こらないとも限りません。

個人的な考えですが、参加するマラソン大会を選ぶときは、数回以上開催されている公認大会を選ぶのが良いと思います。

公認大会でない場合は距離も正確でないこともあるので、参加するときは主催者に距離の計測方法も確認してみましょう。 

     過去の記事一覧f:id:usariku:20170501233717p:plain